東京地方裁判所 昭和55年(ワ)3846号 判決 1980年10月31日
原告 東和商事株式会社
被告 土居千鶴子
主文
原告が東京地方裁判所昭和五三年(ケ)第一三六三号不動産競売申立事件につき、被告に対し配当金二八三万三、三八〇円の交付を受ける権利を有することを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文と同旨。
二 被告
1 本案前
本件訴えを却下する。
2 本案
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告
1 原告は、訴外株式会社デユーマ(本店所在地東京都文京区本郷一丁目二五番二号)に対し、六〇〇万円の約束手形金債権を有する。
2 原告は、昭和五三年六月一二日、被告との間で、右訴外会社の債務を担保するため、別紙物件目録(一)、(二)記載の土地及び建物につき、五〇〇万円を極度額とする根抵当権設定契約を締結し、東京法務局渋谷出張所同月一九日受付第二八五六四号(但し、右建物につき)、同第二八五六五号(但し、右土地につき)をもつてその旨の仮登記を了した。
3 右土地及び建物につき、東京地方裁判所昭和五三年(ケ)第一三六三号不動産競売申立事件をもつて任意競売に付され、訴外佐藤良子が昭和五四年六月一一日競落し、これによる配当期日が昭和五五年一月一七日開かれ、配当表の原告に対する配当額は元金二三九万〇、五三一円、損害金四四万二、八四九円の合計額二八三万三、三八〇円となつた。
4 しかるに、被告は、原告の右配当金受領につき同意をしない。
5 よつて、原告は被告に対し、原告が右配当金二三八万三、三八〇円につき交付を受ける権利を有することの確認を求める。
二 被告
原告の主張事実は全部認めるが、本件訴えはその利益を欠くものであるから、却下されるべきである。すなわち、配当金の交付は実体法上の権利に従つて実施されるのであるから、原告が配当金の交付を受けるに被告の同意を求める必要はない。また、配当金の交付は裁判所の行為の反射的効果であるから、権利または法律関係ということもできないのである。さらに、仮に原告が配当表に異議があるのならば配当異議の訴えによるべきであつて、本件の如き訴えは認められないというべきである。
理由
原告の主張事実は当事者間に争いがないところ、被告は、本件訴えがその利益を欠くものである旨主張するので、以下、この点につき検討する。
いわゆる仮登記抵当権者は、民事執行法(昭和五四年法第四号)による削除前の民訴法(以下「旧法」という。)六四八条四号又は民事執行法による廃止前の競売法二七条四項四号に基づき、当該権利が仮登記抵当権であること及び被担保債権とその金額とを明らかにして競売裁判所に届け出る方法により、目的不動産の競売手続に参加して配当を受けることができ、そして、競売法による不動産競売手続において、競売裁判所は、仮登記のある抵当権者に対してはその仮登記の本登記をすれば第三者に対抗することができる抵当権の順位及び内容にしたがつて競売代金を配当すべく、その配当額については旧法六三〇条三項を類推してこれを供託すべく、そして、仮登記の抵当権者は、右供託金の交付を受けるには、仮登記の抵当権につき本登記をなすに必要な実体上の条件の具備したこと及び抵当権そのものの成立につき債務者(物上保証の場合は所有者)の同意をえたうえで、債務者と連署のうえ請求すべきものと解する。債務者がこれを争うときは、訴訟により、抵当権の成立及び本登記をなすに必要な実体上の条件が具備したことを主張し、配当金の交付を受ける権利を有することの確認の訴えを提起し、その勝訴の確定判決を得ることによつて右供託金の交付を受けることができるものと解すべきである。
これを本件につきみるに、被告は、原告の主張事実を全部認めているけれども、原告の配当金受領につき同意をしないというのである(但し、この理由は主張のうえで明らかではない。)から、原告は、被告に対し、右配当金の交付を受ける権利の有することの確認の訴えを提起する利益を有することは明らかである。
被告の主張は、いずれも採用することができない。
よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 林豊)
別紙物件目録<省略>